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福岡地方裁判所 昭和40年(ワ)1162号 判決 1969年2月12日

原告 遠藤武治 外一九九名

被告 日本炭礦株式会社 外一名

主文

一、被告日本炭礦株式会社は原告らに対しそれぞれ金一七、〇〇〇円及び原告吉崎芙美子に対し昭和四二年六月一七日以降、その余の原告らに対し昭和四〇年一二月四日以降それぞれ支払ずみまで右各金額に対する年五分の割合による金員を支払え。

二、原告吉崎芙美子の被告日本炭礦株式会社に対するその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用のうち原告らと被告日本炭礦株式会社との間に生じた部分は同被告の、原告らと被告日炭高松労働組合との間に生じた部分は原告らの各負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

「被告日本炭礦株式会社(以下被告会社という)は原告らに対しそれぞれ金一七、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年一二月四日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。被告会社に対する右請求が認容されないときは、被告日炭高松労働組合(以下被告組合という)は原告らに対しそれぞれ金一七、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年一二月二日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決を求める。

二  被告会社

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求める。

三  被告組合

(一)  本案前の申立

「原告らの訴を却下する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求める。

(二)  本案に対する申立

被告会社に同じ。

第二当事者の主張

一  被告会社に対する請求について

(請求原因)

(一) 原告吉崎芙美子を除くその余の原告一九九名(以下原告一九九名という)及び亡吉崎幸敏はいずれももと被告会社の従業員であつたが、昭和三八年二月四日以降に被告会社を退職した者である(吉崎幸敏は死亡退職)。

(二) 被告会社は右退職に際し原告一九九名及び吉崎幸敏の妻で同人の退職金の受給権者である原告吉崎芙美子に支給すべき退職金からそれぞれ金一七、〇〇〇円宛を控除してその残額を支給し、退職金のうち右金額については原告らに支給していない。

(三) よつて、原告らは被告会社に対しそれぞれ退職金残額一七、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四〇年一二月四日以降支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

(一) 請求原因(一)の事実を認める。

(二) 同(二)の事実を認める。

(抗弁)

(一) 被告会社は昭和三六年六月一日従業員の過半数で組織されている被告組合との間に書面により賃金支給の際の控除金に関する協定を締結しており、被告組合の組合員の組合費を賃金から控除して支払うことができるところ、昭和三八年二月三日開催の被告組合第七三回定期大会続会における臨時組合費徴収決議に基づき、翌四日被告組合から文書で同日以降の退職者の退職金から金一七、〇〇〇円宛を臨時組合費として控除するよう依頼を受けたので、いずれも被告組合の組合員であつた原告一九九名及び亡吉崎幸敏の退職金からそれぞれ右金額を控除したうえ、被告組合に支払つたものであり、原告らに対する右金額相当の退職金債務は弁済により消滅している。

(二) 仮りに右大会において臨時組合費の徴収決議が成立しておらず、あるいはそれが無効であつたとしても、被告会社は被告組合の控除依頼により正当な大会決議に基づく臨時組合費であると信じて前記のように退職金から控除し被告組合に支払つたものであり、債権の準占有者に対する弁済として有効であるから、原告らに対する退職金債務は消滅している。

(抗弁に対する答弁及び原告らの反論)

(一) 抗弁(一)のうち、被告組合の第七三回定期大会続会が昭和三八年二月三日に開催されたこと、原告一九九名及び亡吉崎幸敏がいずれも当時被告組合の組合員であつたこと、被告会社がこれらの者の退職金から金一七、〇〇〇円宛を控除してこれを被告組合に交付したことは認めるが、右大会において臨時組合費の徴収決議がなされたこと、原告らの被告会社に対する右金額相当の退職金債務が消滅したことは否認する。その余の事実は知らない。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 右第七三回定期大会続会は、約二億円の赤字をかかえて苦慮していた訴外日炭高松消費生活協同組合(以下高松生協または生協という)を援助するため被告組合が訴外福岡県労働金庫(以下労金という)から借入れて同生協に貸付けていた約九、八〇〇万円の債権が回収不能となり、同金庫から右借入金債務の返済を迫られるに至つた件の対策(いわゆる生協対策)をどうするかを議題として討議を行なつたが、右債務を全組合員が一律に金一七、〇〇〇円宛負担する案については反対意見が強く、結論を出すことができないため、暫定的措置として、この問題についての結論は後日の大会に持越す、とりあえず翌二月四日以降の退職者の退職金から一人当り金一七、〇〇〇円を控除して預かる、その法的根拠等については早急に戦術委員会で調査する旨を多数決で決定したに過ぎない。

しかしながら、退職金の一部をとりあえず預かるというようなことは組織の問題として多数決で強制できる筋合のものではなく、個別的に同意があつた組合員に対してのみ可能であり、また、被告組合においては被告会社を退職すると同時に組合員たる地位を失うことになつているため退職者は暫定的措置として一方的に控除された金員の処分について関与する余地が全くなく、在職者に比し著しく不利な取扱いを受けるのであつて、いずれにしても右のような大会決議は無効である。仮りに右大会以後において生協対策について何らかの確定的結論が出されたとしても、それにより右大会決議に基づいてなされた本件控除が有効となるものではない。

また、右大会における決議が臨時組合費として退職者から金一七、〇〇〇円宛を控除する趣旨であつたとしても、引続き在職する者に対する措置を保留し、この点については今後論議を続けていくというものである限り、右のような決議が組合員平等の原則に反し無効であることはいうまでもない。

そもそも本件控除金は被告組合とは別の組織である高松生協の経営の失敗と幹部の不正から生じた赤字の処理を目的とするものであつて、たとえこのような性質の債務を臨時組合費として各組合員に負担させる旨の大会決議が成立したとしても、個別的な同意がない限り個々の組合員を拘束しないし、また、右のような大会決議がこれに反対の組合員に対して拘束力を有すると解しても、右決議による組合員の義務は労働組合という社団の統制作用に基づくものであつて、法律上の債権債務を発生させるものではない。いずれにしても、原告らが自主的に支払えば格別、その意に反して支払を強制されることはないのに、原告らは退職金からの控除という形で個々の意思に関係なく一方的に支払を強制されたものであるから、本件控除は無効である。

さらに、チエツク・オフは労働組合が個々の組合員の有する賃金の受給権を代理して使用者から直接受領するという性質を有しているところ、本件においては原告らから被告組合に対し個別的な退職金受領についての代理権授与がなされていないにもかかわらず、被告会社が退職金の一部を控除して被告組合に支払つたのであるから、債権者である原告らに対して弁済の効力を生じない。

(再抗弁)

仮りに被告会社が被告組合の控除依頼により正当な大会決議に基づく臨時組合費であると信じて金一七、〇〇〇円宛を控除しこれを被告組合に支払つたとしても、本件控除金はこれまでにない多額であること、控除依頼の文書自体に「生協対策個人分担預り金」と記載されているうえ、控除対象者も「昭和三八年二月四日以降の退職者」であり、他の場合とは明らかに異なること、その当時被告組合内部でいわゆる生協対策がやかましい論議を呼んでいるのを被告会社が知つていたこと等に照すと、被告会社としては被告組合の控除依頼について、果してそれが正当な大会決議に基づくものかどうか、その実態が臨時組合費といえるのかどうかに疑問をいだくのが当然であるのに、これらの点について調査もせずにこれに応じたのは被告会社に過失があるから、被告組合に対する弁済は債権の準占有者に対する弁済として有効とはいえない。

(再抗弁に対する答弁及び被告会社の反論)

(一) 再抗弁事実は否認する。

(二) 本件以前においても被告組合から被告会社に対し、賃金の二〇%とか金三、一〇〇円という多額の臨時組合費の控除依頼や、「昭和三八年一月末の在籍者」、「昭和三七年一二月八日から一四日までのスト期間中の保安要員」、「昭和三六年一〇月一日以降の退職者」というような組合員の一部からの控除依頼がなされたことがあり、また、「生協対策個人分担預り金」との記載についても被告会社としてはこれまでの例からして被告組合内部における使途を略記したに過ぎないものと解したのであつて、本件控除依頼が従来のそれと異なるところはなく、被告会社がこれを正当な大会決議に基づく臨時組合費の控除依頼と解したことについて何ら過失は存しない。

被告会社としては被告組合から臨時組合費の控除依頼があつた場合、それが臨時組合費としての実態を有しているかどうかはわからないので、一見して組合のために使用されるものでないこと、または使途が公序良俗に反するものであることが明らかであるような場合を除いて、控除依頼の趣旨のとおり理解せざるを得ない。そもそも被告会社にはそのような臨時組合費の実態に立入つて調査する義務はないものというべきであり、そのような調査を行なうことはかえつて労働組合に対する干渉となり、労使間の信義にも反する。

二  被告組合に対する請求について

(請求原因)

(一) 原告一九九名及び亡吉崎幸敏はいずれももと被告会社の従業員であり、かつ被告会社従業員をもつて組織される被告組合の組合員であつたが、昭和三八年二月四日以降に被告会社を退職すると同時に右組合員たる地位を去つた者である(右のうち吉崎は死亡退職)。

(二) 被告組合は、同月三日開催の第七三回定期大会続会において臨時組合費の徴収決議があつたと称して、原告一九九名及び右吉崎の妻で同人の退職金の受給権者である原告吉崎芙美子が右退職に際し被告会社より受領すべき退職金の中から被告会社を通じて臨時組合費名下に金一七、〇〇〇円宛を控除せしめ、被告会社からその交付を受けて徴収した。

(三) しかしながら、前記被告会社に対する請求についての(抗弁に対する答弁及び原告らの反論)(三)において主張したとおり、右大会において臨時組合費の徴収決議はなされておらず、また、右大会において実際に成立した同月四日以降の退職者の退職金から金一七、〇〇〇円宛を預かる旨の決議は無効である。その他、右一七、〇〇〇円徴収の根拠が存しないことは同項記載のとおりである。

(四) すなわち、いずれにしても右臨時組合費の徴収は法律上の根拠を欠くものとして無効であり、従つて被告組合は原告らからそれぞれ金一七、〇〇〇円を不当に利得し、原告らは各自同額の損失を受けたわけである。

(五) よつて、原告らは、被告会社による退職金の一部控除が有効と認められ被告会社に対する退職金支払請求が認容されない場合には、被告組合に対し各自右不当利得金一七、〇〇〇円及びこれに対する被告組合が悪意になつた後である昭和四〇年一二月二日以降支払ずみまで民法所定年五分の割合による法定利息金の支払を予備的に求める。

(被告組合の本案前の主張)

原告らの被告組合に対する請求は被告会社に対する請求との関係においていわゆる訴の主観的予備的併合の場合にあたるが、このような訴訟形態は予備的請求の第二次当事者を訴訟手続進行中絶えず不安定な立場に置き、計り知れない不利益を与えるもので、民事訴訟法の要請する当事者公平の原則や訴訟経済の原則に背反し、許されないものである。殊に本訴は第一次請求が被告会社に対する退職金支払請求、予備的請求が被告組合に対する不当利得金返還請求であつて、訴訟物を異にし、訴訟資料その他についてほとんど共通性を有しない。このような請求について主観的予備的併合を認めることは、当事者の確定困難な事案や事実的、法律的に訴訟物と当事者との関係が不明確な事案と異なり、当事者の一方に甚しく不利益を課すだけであり、到底許されず、被告組合に対する訴は不適法として却下されるべきである。

(本案前の主張に対する原告らの反論)

一の請求と他の請求とが一定の論理関係を有している場合には判断の統一という観点から同一の訴訟でその帰結を一挙一律に決めてしまうことが望ましいのであり、訴訟制度の本質にも合致する。また、訴訟資料が共通に利用されることにより期待し得る裁判の統一は法律政策上も望ましいところである。

本訴についていえば、被告組合の第七三回定期大会における討議の経過、決議の内容、控除金の法的性格等が被告両名いずれに対する関係においても最大の争点になるものと思われ、訴訟資料の共通性は十分に存するのであり、原告らの被告組合に対する請求の予備的併合は許されるべきである。

(請求原因に対する答弁及び被告組合の反論)

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は認める。

(三) 同(三)のうち、昭和三八年二月三日開催の被告組合第七三回定期大会続会においてほぼ原告ら主張のような内容のいわゆる生協対策が議題として提案され討議が行なわれたこと(但し、労金からの借入額の点を除く)、被告組合においては組合員は退職と同時に組合員たる資格を失うことになつていることは認めるが、その余の事実は否認する。労金から請求のあつた金額は元利合計金九八、三一一、一〇九円である。

(四) 同(四)の事実は否認する。

(五) 被告組合の執行部は右大会において生協対策の原案として生協の再建方針を提案し、もし右方針をとらず清算する場合には債務返済のため組合員一人当り一七、〇〇〇円の負担になる旨を説明していたところ、再建方針に対しては反対意見が多く、可決の見通しが立たなくなり、長時間にわたる論議の末、ようやく

(1) 翌二月四日以降の退職者の退職金から臨時組合費として金一七、〇〇〇円宛を控除し管理する(法的な問題等については早急に戦術委員会で調査する)

(2) 本大会の名をもつて生協総代会を開催し問題を明確にするよう要請する

(3) 従つてその後の大会で結論を出す

という議長集約が反対なし、保留四で可決決定された。

結局、大会代議員は組合員全員が平等に労金に対する債務を負担する清算方式を支持したのであるが、労金との間に債務の減額等について交渉の余地が残されていたことと、当時企業合理化により組合員が次々と退職し組合員資格を失つていく状態で、退職者については早急に徴収しておかなければ組合員一人当りの負担額が増大の一途をたどることから、右のような決定となつたもので、退職者のみならず昭和三八年二月三日当時の在籍組合員全員が平等に責任を負うことは右大会において決定しているのである。

その後同月二四日開催の第七四回臨時大会において、戦術委員会の調査に基づき、退職者の退職金から控除する金一七、〇〇〇円は臨時組合費として徴収する旨、及び右徴収は大会決定による限り違法ではない旨が満場一致で確認された。

同年四月三日労金との折衝により返済額が金九、一五〇万円と確定し、被告組合は同年二月三日当時の在籍組合員五、七六〇名を対象に徴収不可能な者を除き、退職者については退職金から、在職者については労金に対する積立金から臨時組合費としてそれぞれ一人当り金一七、〇〇〇円、合計金九〇、九九九、〇九九円を徴収した(退職者一、九六七名中、退職金より控除不能の者二四八名。在職者三、七九三名中、右積立金が金一七、〇〇〇円に満たないため全額の徴収ができない者二八四名)。

右にみたように本件臨時組合費の徴収は大会決定に従つて平等に行なわれており、退職者に対してのみ不平等な取扱いがなされたことはない。

法律的にみても、被告組合の規約第一三条によれば組合は臨時費を徴収することができる旨規定されており、組合債務を組合員に負担させるため大会の決定に基づき在籍組合員全員から平等に臨時組合費を徴収することも組合員相互の連帯性の見地から許されるべきであつて、当該組合債務が労働組合の正当な活動に基づくものである以上、組合員は大会の徴収決議に従う義務がある。被告組合が高松生協建直しのために労金から借入れた本件債務は規約第三条第五号の福利厚生並びに共済に関する事業の執行により生じた正当な組合の活動に基づく債務であるから、被告組合がこれを組合員に負担させるため原告らの受領すべき退職金から臨時組合費を徴収したことは法律上の根拠に基づくものであつて、原告らの主張は理由がない。

第三証拠関係<省略>

理由

一、被告会社に対する請求について

(一)  原告吉崎芙美子を除くその余の原告一九九名及び亡吉崎幸敏がいずれももと被告会社の従業員であり、昭和三八年二月四日以降に被告会社を退職した者であること、右のうち吉崎幸敏が死亡退職であつたこと、被告会社が右退職に際し原告一九九名及び亡吉崎幸敏の妻で同人の退職金の受給権者である原告吉崎芙美子に支給すべき退職金からそれぞれ金一七、〇〇〇円宛を控除してその残額を支給し、退職金のうち右金額については原告らに支給していないことは当事者間に争いがない。

(二)  まず、被告会社主張の抗弁について判断する。

1  抗弁(一)について

被告組合の第七三回定期大会続会が昭和三八年二月三日に開催されたこと、原告一九九名及び亡吉崎幸敏がいずれも当時被告組合の組合員であつたこと、被告会社がこれらの者の退職金から金一七、〇〇〇円宛を控除してこれを被告組合に交付したことは当事者間に争いがなく、証人鳴海健治の証言、右証言により真正に成立したものと認められる乙第一、二号証、第三号証の一、二、証人山口一弘の証言により真正に成立したものと認められる同第四号証、成立に争いのない丙第三号証を総合すると、昭和三六年、三八年及び四〇年の各六月一日で、被告会社と被告会社高松事務所(当初は高松礦業所と称していた)従業員の過半数で組織されている被告組合との間に、労働基準法第二四条第一項但書に基づいて、それぞれ書面により賃金支払の際の控除金に関する協定(いわゆるチエツク・オフ協定)が締結されており、いずれも本来の有効期間一年の経過後にさらに一年間自動延長されたこと、右各協定の第一項には「法令に定めるもののほか、左に掲げるものはこれを賃金支払の際各人の賃金より控除精算する」旨、及びその第四号には「労働組合の組合費及び図書費」との規定があり、臨時組合費については被告組合から被告会社に対しその都度書面により控除が依頼され、これに従つて被告会社が賃金から控除し被告組合に一括交付する取扱いがなされていたこと、昭和三八年二月四日付「臨時組合費徴収に関する件」と題する文書で、被告組合の組合長から被告会社高松事務所勤労部長経由総務部長宛に、同月三日第七三回定期大会において同月四日以降の退職者より臨時組合費として生協対策個人分担預り金一七、〇〇〇円宛を徴収することを決定したので控除を依頼する旨の申出があつたこと、被告会社が原告らに支給すべき退職金から金一七、〇〇〇円宛を控除しこれを被告組合に交付したのは右申出に従つたもので、右のような取扱いは被告組合から被告会社に対し昭和四一年一一月一日以降控除中止の申出があるまで続けられたこと、被告組合の規約によれば、組合員は「組合費その他の負担に応ずる義務」を負うが、「規約、規程又は機関の決議によらずして………義務を課せられることはない」(第九条)旨、及び「組合は本部委員会で必要と認めた場合は大会の議を経て臨時費を徴収することができる」(第五〇条)旨の規定があることが認められる。

しかしながら、昭和三八年二月三日開催の被告組合第七三回定期大会続会において右控除依頼の文書に記載されているような臨時組合費の徴収決議が成立したことを認めるにたる証拠はなく、証人早野暉雄の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、二、第二号証の一、二(いずれも後記措信しない部分を除く)、第三号証の一、二(後記措信しない部分を除く)、第四号証の一、二、第五、六号証、第七号証の一、第八号証、被告組合代表者稲村丑尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第七号証の二、成立に争いのない同第一一号証、丙第一号証(後記措信しない部分を除く)、第二号証、第四号証の一、二(後記措信しない部分を除く)、前出同第三号証、証人浜辺光一の証言により真正に成立したものと認められる同第五、六号証、証人早野暉雄(第一、二回)、同香月一三、同山口一弘、同浜辺光一の各証言(後二者の証言中後記措信しない部分を除く)、被告組合代表者稲村丑尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると、次のような事実が認められる。

1 昭和三八年一月二七日開催の被告組合第七三回定期大会の議題の一つとして執行部から「生協対策について」が提案された。

これは、被告組合の援助により設立、運営され、被告組合の組合員の過半数が加入するとともに被告組合の副組合長が慣例として理事長を兼ねるなど被告組合と事実上緊密な協力関係にあり、被告組合の福利厚生活動の重要な一翼を担つていた高松生協が無定見な経営と放漫な設備拡張等により莫大な赤字を生じて行詰つたため、被告組合が労金に積立てている組合員の預金を担保に労金から融資を受けて同生協に貸付け、あるいは同生協が労金から融資を受けるにつき連帯保証をしたところ、昭和三八年一月同生協の専務理事が不正容疑で逮捕され閉店の事態を迎えるに及んで、労金から右借入金債務(連帯保証分及び利息を含む)九、八三一万円余りの返済を迫られるに至つた件について、被告組合としての対策を講じようというものであつた。しかし、大会に付すべき生協対策の内容については、これを審議すべき中央委員会(本部委員会の別称)で意見が対立し結論を出すことができなかつたため、執行部はやむを得ず、被告会社の経営する配給所を被告組合に移管させる闘争(いわゆる配給所奪取闘争)と売上げ倍加運動の推進により五年四箇月にわたつて債務を分割、返済していく再建案を第一とし、それが不可能であれば、前記九、八三一万円余りの債務を当時の組合員約五、七六〇名が平等に約一七、〇〇〇円宛負担する清算案を第二とする二つの案を大会にそのまま提案するという異例の措置をとることとした。なお、執行部がこの問題の解決を急いでいた背景として、その当時被告会社においては石炭産業の不振により大規模な人員整理を含む第三次合理化計画の実施を間近に控えており、近く被告組合の組合員が大幅に減少することが確実であつたため(規約により組合員は被告会社を退職すると同時に組合員たる資格を失うことになつている)、この問題の解決を放置して時期を延ばせば延ばすほど組合員一人当りの債務額がいよいよ増大し、負担が困難になるという事情があつた。

2 右昭和三八年一月二七日の大会は合理化闘争の議題に時間をとられ、生協対策についてはほとんど討議されないうちに定数不足となり流会に終つた。

そのため、同年二月三日午前一一時から続会として再開され、生協対策を中心に討議が行なわれたが、組合員一〇名に一名の割合で選出されている代議員からは、それまで生協に対する融資について知らされていなかつた不満をはじめ、生協の問題をこのような形で解決しようとすること自体及び執行部の提案内容に対する反対意見や批判が続出して大会は紛糾し、執行部の提案のいずれかが可決されるような情勢ではなかつた。

そこで、議長から原案否決及び全組合員の一般投票に付することを内容とする提案がなされ、集約確認を求めようとしたが、なおも意見が続出して集約することができず、さらに長時間の討議が続けられ、午後七時に至り、ようやく、

(1) 暫定的措置として翌二月四日以降の退職者の退職金から金一七、〇〇〇円宛を控除して管理する。この点に関する法律上の問題等については早急に戦術委員会で調査する。

(2) 本大会の名をもつて生協総代会を開催し問題を明確にするよう要請する。

(3) 生協対策についての結論はその後の大会に持越す。

との議長提案により当日の大会を収拾することとなり、右提案は挙手採決により大多数で可決された。しかし、(1)の金一七、〇〇〇円はどのような形式、名目をとるにせよ最終的に退職者からその処分権を奪つてしまうことが承認されたものでは決してなかつた。

右続会の二、三日後に被告組合の執行部は退職者からの控除金の取扱いについて上部機関である九州炭労と相談した結果、臨時組合費として徴収する形式をとるならば規約に抵触せず違法ではないとの結論に達したので、その旨を決定し、数日後に戦術委員会(争議行為を行なおうとする場合に設けられる機関で、構成員は執行委員会に同じ)に報告したうえ、前記認定のとおり被告会社に文書で徴収を依頼した。そして、同年二月二四日開催の第七四回大会において、臨時組合費としてでないと退職金から控除できないので、一応名目は臨時組合費という形式で徴収する旨を報告して承認を得るとともに、第三次合理化闘争中は生協問題の討議を一時棚上げすることを決定した。

3 その後一年有余を経て、被告組合の執行部は、労金との折衝により利息金の一部免除について了解をとりつけ、昭和三九年五月一〇日開催の第八一回臨時大会に、昭和三八年二月三日以前から入山している在籍組合員の労金に対する積立金から一人当り金一三、九二二円を臨時組合費として徴収し、既退職者については控除ずみの金一七、〇〇〇円との差額を返還する旨の提案をしようとしたところ(執行部はこの頃になると、退職者からの控除金は本来の臨時組合費であるとの見解をとるようになつていた)、定数不足のため流会となり、同月一七日に続会を開いて右提案を行なつたが、当時の事情や責任の所在を明らかにするのが先決であるとの意見が代議員間に非常に強く、審議途中で定数不足となり再び流会に終つた。そのため労金から早急な解決を迫られていた執行部は窮地に陥り、被告組合としての態度と目安を労金側に明らかにする必要から、同月二五日右執行部提案を組合員の一般投票に付したが、棄権者が多く、辛うじて投票総数(二、六七〇票)の過半数の賛成(一、三八四票)を得たものの、有権者総数(三、七七六名)の過半数には到底達しなかつた。

さらに、同年九月末ごろ開かれた被告組合の第八二回定期大会においても結論が出なかつたため、それまで被告組合による自主的な解決を期待し猶予していた労金も遂に同年一〇月三日付で、被告組合に対する債権額を元利合計金九、一〇〇万円(連帯保証分を含む。利息金の一部を免除)として、被告組合の組合員が労金に積立てている被告組合名義の預金債務(この中には退職者からの金一七、〇〇〇円宛の控除金も含まれていた)と対当額において相殺して決済した。

結局、被告組合は、昭和四一年九月四日開催の第八六回定期大会において、生協関係の債務処理につき、労金による決済の結果を確認する、昭和三八年二月三日以前に入山した在籍組合員の労金に対する積立金から一人当り金一七、〇〇〇円を臨時組合費として徴収する。右金額については被告会社との折衝により被告会社から填補するよう努力するとの内容の執行部提案を可決、決定した。右決定は既退職者の退職金から控除した金一七、〇〇〇円は臨時組合費であつて退職者については処理ずみであるとの前提に立つており、被告組合としてはこれにより昭和三八年二月三日第七三回定期大会続会当時の全組合員から金一七、〇〇〇円宛を臨時組合費として徴収するという形で生協関係債務の処理に決着をつけたものであつた。しかし、右第八六回大会当時組合員は約二、一〇〇名余りに減少しており、原告ら退職者は右大会に出席して討議する機会を与えられなかつた。なお、右大会決定中、被告会社から填補するよう努力するというのは、その当時被告組合三役が被告会社との間で引続き在職して会社の再建に協力する組合員に対し再建協力金ないし生産協力金の名目で金一七、〇〇〇円宛を支給するよう折衝しており、被告会社においても再建計画終了の段階で考慮する旨約束していたことを指していた。

前記甲第二号証の一、二、第三号証の二、丙第一号証、第四号証の二(甲第九号証の二も同一)、証人山口一弘、同浜辺光一、同星岡明夫の各証言、被告組合代表者稲村丑尋問の結果中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆えすにたる証拠はない。

右認定の経過から明らかなように被告組合の第七三回定期大会続会において有効な臨時組合費の徴収決議が成立したものとは到底認められないので(なお、戦術委員会の調査と第七四回大会における報告、承認に基づいて臨時組合費の形式がとられたからといつて、有効な臨時組合費の徴収決議となるものでないことは論をまたず、また、その後第八六回定期大会における決定と相まつて昭和三八年二月三日当時の在籍全組合員を対象とする金一七、〇〇〇円宛の臨時組合費徴収決議が成立したものと解しても、右大会当時原告らはすでに被告組合の組合員たる地位にはなかつたのであるから、遡及して原告らを拘束するに由ないものである。さらに、仮りに被告会社主張のような臨時組合費の徴収決議が成立したとしても、そもそも労働組合はおよそその目的の範囲内の活動のために必要な資金であれば、その使途、性質のいかんを問わず、常に経常的な組合費以外に当該資金を臨時の費用として臨時組合費その他の名目で組合員に賦課し、かつ強制的に徴収することができるわけのものではなく、組合規約所定の機関決定により組合員を拘束できる臨時組合費等の内容には限界があり、当該臨時組合費等徴収の目的が対使用者との関係において労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図るため団体交渉その他の団体行動をするという労働組合本来の目的から著しく離隔し、右のような活動目的のための資金としての性格が甚だ稀簿である場合には、組合員の個別的な同意がない限り強制的に徴収することは許されず、その点の判断は個々の事案に即して個別的、具体的に決せられるべきところ、本件の金一七、〇〇〇円の臨時組合費は被告組合と緊密な協力関係にはあるが被告組合とは別個の法人格を有し構成員も同一でない高松生協の運営資金にあてる目的で労金から借入れ右目的に使用した資金が回収不能となつたことに伴い、これを全組合員に負担させる趣旨のものであつて、争議行為等に必要な闘争資金として他から借入れその目的に使用した資金を返済するための負担金等と異なり、被告組合の債務ではあつても前記のような労働組合本来の活動目的のための費用としての性格が甚だ稀薄であるから、組合員の個別的な同意があれば格別、同意のない組合員からこれを強制的に徴収できるかどうかは極めて疑問であり、否定的に解さざるを得ない。しかるに、原告らの個別的な同意があつたことを認めるべき証拠はなく、いずれにしても法律上組合員を拘束する有効な臨時組合費の徴収決議が成立したものとは認められない)、その点を前提とする被告会社の抗弁(一)はその余の点について判断するまでもなく採用できない。

2  抗弁(二)について

思うに、労働基準法第二四条第一項但書により使用者が当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間に書面による協定を締結し、労働組合費その他労働組合の組合員に対する賦課金を組合員である労働者に支払うべき賃金から控除して直接労働組合に交付する旨定めている場合においては、労働組合が個々の組合員から組合費等に相当する額の賃金の受領権限を授与され、個々の組合員に代つてこれを使用者から受領すると同時に、組合費等に充当する関係にあり、個々の組合員の賃金請求権は労働組合が組合費等相当額を使用者から受領することにより消滅するものと解すべきである。従つて、個々の組合員の賃金請求権が有効に消滅するためには、使用者、労働組合間に右のような労働基準法第二四条第一項但書に基づく協定が存在するほか、労働組合と組合員間において、規約所定の手続に従つた組合費等の徴収に関する有効な機関決定と組合費等に相当する額の賃金を労働組合が組合員に代つて受領するについての個々の組合員の同意を必要とするのであり、これらの要件を具備する限り使用者は弁済の免責を受け得るが、右要件の全部ないし一部が欠け労働組合に受領権限がないにもかかわらず、組合員の賃金から組合費等に相当する額を控除しこれを労働組合に引渡した場合には労働組合には受領権限がないのであるから、使用者はその免責を受けるに由なく、ただ表見代理または債権の準占有者に対する弁済(債権者の代理人と称して債権を行使する者も民法第四七八条にいう債権の準占有者にあたる)の要件を充足する限りにおいて右組合費等相当額の賃金請求に対し弁済の効果をもつて組合員に対抗できるものと解する。

しかして、被告会社の主張する債権の準占有者に対する弁済が有効とされるためには弁済者が善意かつ無過失であることを要するところ、本件において被告会社が善意であつたこと、すなわち、被告会社が原告らに支給すべき退職金から金一七、〇〇〇円宛を控除して被告組合に交付するについて、被告組合の第七三回定期大会続会において有効な臨時組合費の徴収決議が成立しておらず、被告組合に右金額の受領権限がないことを知らなかつたことは、証人鳴海健治の証言に照らして明らかである。

(三)  そこで、被告会社に過失があつた旨の原告らの再抗弁について判断する。

証人鳴海健治、同星岡明夫の各証言、右鳴海の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ないし六、第六号証、前出丙第二、三号証を総合すると、従来本件のような「生協対策個人分担預り金」という臨時組合費の控除依頼がなされたことはなかつたこと、本件までに被告会社が控除を依頼された臨時組合費のうち一人当り一回の最高額は明確なものとしては昭和三六年一〇月の石炭政策転換大行進カンパ三、一〇〇円であり(これも本件と同様に退職者の退職金からの控除であつた)、他に四、五千円位のことがあつたかなかつたかという程度であつたこと、被告組合の本来の通常組合費は組合員の毎月の総収入から家族手当を除いた額の一、〇〇〇分の一五であり、他に闘争費として毎月同一、〇〇〇分の五を徴収していたこと、被告会社は第七三回定期大会以前に被告組合の三役から高松生協の再建について協力を求められた経緯があり、その後においても生協関係の債務処理が被告組合の内部でやかましく論議されているのを承知していたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、被告会社が被告組合の本件控除依頼について何らかの調査を行なつたような形跡は本件全証拠によつてもこれを認めることができない。

ところで、前記(二)2のような労働基準法第二四条第一項但書による協定に基づき労働組合から文書で組合費殊に臨時費の控除依頼を受け、実際には臨時費徴収に必要な機関決定の不存在その他の理由により労働組合に臨時費相当額の賃金を受領する権限がなかつたにもかかわらず、そのことを知らずに善意で組合員の賃金から臨時費相当額を控除してこれを労働組合に引渡した使用者は、右控除及び引渡にあたりどの程度の注意義務をつくせば弁済につき過失がなかつたといえるかは、賃金全額払の原則に由来する個々の労働者の賃金債権の保護と組合費の天引制度が労働組合の便宜のために常態化、固定化している現状に伴う取引安全の要請のいずれに重きを置くかにかかつており困難な問題であるが、右のように今日組合費の天引制度が常態化、固定化しているからといつて、少なくともその安易な運用により労働者である組合員の生活に脅威を与えることは許されず、その点に着目して考察するとき、たとえば、労働組合の控除依頼の文書自体から組合規約所定の臨時組合費徴収に必要な機関決定がなされたかどうか明らかでない場合、名目は臨時組合費とされていても控除金額が従来のそれに比べて極端に高額であるのにその内容が不明であるか、または一応記載されてはいるが、その趣旨から前記(二)1のような労働組合本来の活動目的のための資金としての性格が非常に薄く臨時組合費としての控除項目に該当するかどうか疑義がある場合等には、使用者は労働基準法第二四条第一項の規定する賃金全額払の原則に留意し、少なくとも労働組合の役員その他の関係者から説明を求め、事情を確かめる等の注意義務を負うものと解すべきであり、右のような注意義務の行使としての調査が労働組合の運営に対する介入となるものでないことはいうまでもない。

これを本件についてみれば、被告組合の控除依頼の文書自体に臨時組合費の内容が「生協対策個人分担預り金」である旨、及び昭和三八年二月四日以降の退職者を対象とする旨記載されており、前記認定のように控除金額がこれまでの臨時組合費に比べて極端に高額であり、かつ臨時組合費として従来みられなかつた内容のものであつたこと、生協債務処理の問題が被告組合の内部でやかましく論議されているのを被告会社において承知していたこと、本件控除は相当長期間にわたつて実施されており、被告組合の控除申入後被告会社が現実に退職者の退職金から控除を開始するまでにかなりの時間的余裕があつたと推認されること等を考慮すると、果して右のような内容の臨時組合費が控除協定にいう「組合費」に該当するかどうか(ちなみに、前出乙第一、二号証、第三号証の一によれば、被告組合の組合員が争議時に備えて労金に積立てる預金も賃金から控除されるが、これについては「組合費」等とは別に控除協定の第一項第一七号に規定されていることが認められる)、ひいては大会において徴収決議が有効に成立したのかどうか等について疑問をいだき、少なくとも被告組合の幹部から説明を求めるとともに大会決議の内容について調査すべきであるのに、被告会社がこれを怠り、何らの調査も行なわずに安易に被告組合の控除依頼に応じたのは被告会社に過失があつたものと解するのが相当である。

従つて、被告会社が受領権限のない被告組合に対してなした支払は債権の準占有者に対する弁済として原告らの退職金債権を消滅させる効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

(四)  以上のとおり被告会社の抗弁はいずれも採用できず、被告会社は原告らに対しそれぞれ退職金残額一七、〇〇〇円及び原告一九九名に対し訴状送達の翌日である昭和四〇年一二月四日以降、原告吉崎芙美子に対し本訴が提起された本件第八回口頭弁論期日の翌日である昭和四二年六月一七日以降(右の点については本件記録上明らかである。但し、被告会社に対する訴状等の送達証書の送達年月日欄に昭和四〇年一一月三日とあるのは同年一二月三日の明白な誤記と認める)、それぞれ支払ずみまで右金額に対する年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。原告吉崎芙美子は当初他の原告らと同様に同原告自身の退職による退職金残額一七、〇〇〇円の支払を請求していたが、後にこれを取下げ、第八回口頭弁論期日に夫幸敏の死亡退職による退職金受給権者として右同額の支払を求める本訴を提起したものであるから、本訴が提起された右口頭弁論期日までの遅延損害金についてはこれを請求する根拠がない。

二、被告組合に対する請求について

原告らは被告会社に対する退職金残額一七、〇〇〇円の支払請求が認容されることを解除条件として第二次被告たる被告組合に対する請求について審判を申立てているので、裁判所において被告会社に対する右請求を認容する場合(遅延損害金の請求のみを棄却する場合を含む)には、被告組合に対する請求の本案についてはもとより、右のような態様の当事者併合(いわゆる主観的予備的併合)の訴が許されるかどうかの訴の適否についても判断することを要しないものと解する。従つて、被告組合に対する請求については判断しない。

三、結論

以上のとおり、原告らの被告会社に対する本訴請求は原告吉崎芙美子の昭和四〇年一二月四日以降昭和四二年六月一六日までの遅延損害金の支払を求める部分を除いて理由があるのでこれを認容し、右部分については理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第八九条、第九〇条、第九三条第一項本文を適用して(原告らと予備的被告たる被告組合との間に生じた部分は原告らに負担させるのを相当と認める)、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利智 石川哲男 安井正弘)

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